海の王子(1)

海の王子 1 (藤子・F・不二雄大全集)

海の王子 1 (藤子・F・不二雄大全集)

少年サンデー創刊号('59年)から連載された、藤子不二雄出世作。生活ギャグ漫画というスタイルが確立される前の作品だが、SFマインド溢れる読み応えのある冒険物で、後年の作品とはまた違った魅力に溢れている。この作品、特に前半部はキャラやメカの書き込みが非常に丁寧なので、絵も含めてじっくりと読み込みたい。実に50年前(!)の作品ですが、単行本としても藤子不二雄ランド以来25年ぶりの登場。こういう作品が読めてこそ全集の意味があるってもんです。

  1. 黒いおおかみの挑戦:第1話。航海者たちを悩ませるギャング「黒いおおかみ」と、突然現れた救世主の「海の王子」。双方最初は正体不明だったが、物語の中で少しずつ素性が明かされていく。第1話から、東京からアトム連邦(≒アメリカ。何故かサンフランシスコは実名登場)、紅海、死海、地中海をめぐり、(少なくとも)3ヶ月に渡る壮大な戦い。チエノ博士・キーン司令官との対面はまだ。まだはやぶさ号は武器を持っておらず、結局力まかせのタックルだけで敵を倒した。しかし、大洋丸といい漁船乗組員といい、黒いおおかみの攻撃による犠牲者が結構出ているのは少年漫画とはいえシビアだ。最後の最後に死の危機を救ったのは・・・。
  2. 海へび大帝の猛襲:前回の続きで、物語は海の王子の故郷・カイン王国から始まる。ミンダナオ海溝(フィリピン)での「海へび大帝」との戦いが繰り広げられる。ザイル博士がはやぶさ号を改造し、後々まで活躍する針ねずみ砲、氷結弾が搭載される。この話で、チエノ博士と海の王子が初対面を果たす。アトム連邦軍だけでなく、国連軍まで巻き込むスケールの大きな戦いになったが、最後は結局はやぶさ号だけが活躍。チエノ博士がわざわざアトム連邦まで出向いて出動要請したのに、国連軍とは何だったのか・・・。「武蔵と小次郎の一騎打ちだ!」ってお前ら日本人じゃないだろw
  3. 赤いサソリの恐怖:北極点に現れた赤サソリ艦隊が世界中を襲う。北極→ブルーランド(グリーンランド?)→東京→マワイ(ハワイ?)と、またも世界を駆け巡りながら戦いが続く。海へび大帝の東京総攻撃は寸前で食い止めたが、今回はとうとう東京も艦隊の攻撃を受けてしまう(国民はみんな外国に逃げたらしい)。終盤では大規模な総攻撃を食らっており、ここまでくるとそう簡単には復旧できなさそうだが・・・。これ以降、お笑い担当レギュラーとなるサンデー・ニュースの記者・ハナさんが初登場。真面目一辺倒なキャラだらけの中、こういうキャラは絶対必要だよなあ。アポロ連邦のキーン司令官も再登場。新兵器はうずまき魚雷。
  4. 鉄の獅子の襲来:南太平洋に浮かぶ無敵要塞・ライオン島を中心舞台として、「鉄の獅子」と呼ばれるロボット軍団との攻防が繰り広げられる。獅子型の巨大溶鉱炉東京湾を襲った怪物ゴルゴン、ロボット艦隊、巨大ライオン戦艦など、次々に秘密兵器が現れ、それに対抗して海の王子側も、食鉄虫や反射鏡などの新兵器を繰り出す。週刊連載にふさわしいテンポの速い展開だ。空中戦中心だった前話までと違い、海戦中心の戦いとなった。海の王子の珍しい作戦が出てきて読者も思わず騙されるが、意外とトリックを明かすのが早かったのが残念。もうちょっと引っ張っても良かったのに。しかしハナさん、不死身だ・・・。
  5. 恐竜帝国の決戦:アフリカに謎の恐竜が現れ、しかもその目から出る怪光線で小型機の操縦士が石になってしまう。ハナさんが騒ぎに巻き込まれ、海の王子が出動。舞台はロンドン→南イエメンの首都(当時)アデン市→アフリカのバンサ市(サバンナから?)→トンカ火山(モデル不明)の恐竜帝国、とアフリカ中心。手ごわい化石光線と、それを無効化するものが何か?というあたりが物語の焦点となる。海の王子が石化したときと復活したとき、抱きついて号泣するチマが印象的。兄さんのことが本当に大好きなんだねえ・・・。クセのある魅力的なゲストキャラ・スカンレーも活躍。さらに新兵器のマジックスキンが登場し、この話以降大活躍する。
  6. 砂漠の鷹:別冊サンデー掲載の1話完結物。舞台はサハラ砂漠。謎の爆発を取材するハナさんが「砂漠の鷹」に捕らえられ、呼ばれた海の王子と全面対決。ハナさん、捕まるわ、旋風爆弾のスイッチ押すわ、海の王子に迷惑かけてるだけのような。はやぶさ号は翼が折れても飛べ、しかも予備翼まで備えていることが判明。
  7. 海神ポセイドンの謎:原点回帰かどうかは知らないが、再び海の話。舞台は大西洋の深海、伝説のアトランチス王国。太平洋のX点、マリアナ海溝を超える2万メートルの深さの海溝を探っていた最中、海底付近から引き上げた潜航艇に乗っていたのが、アポロという謎の少年。彼が実はアトランチスの王子で、反乱を起こした海軍大臣ゴリアスに命を狙われているという。アトランチスの守り神・海神ポセイドンの正体を探りながら、ここまでで最も激しい戦いを繰り広げることになった。海の王子とチマ、博士やハナさんもアトランチスのアポロ要塞に泊まりこみで戦った。舞台が入り組んでいるうえに登場人物も異様に多く、じっくりと読みこんでいないと話も追えないほど複雑。ゴムロボットの心理戦やポセイドンの幻影など、敵の攻撃の仕掛けもやたら凝っていた。
  8. ロケット・オリンピック:これも別冊掲載。正体不明の敵との戦いは今回はいったんお休みし、番外編的な話。ロケット・オリンピックに参戦してアメリカやソ連やスケルトン帝国(どこ?)と競う。結局はスケルトン帝国の黒豹号と戦う展開になったわけだが。アメリカとソ連が双方ともやけにカッコ良く描かれてます。

(2010/12/11 記)