バケルくん

バケルくん〔F全集〕 (藤子・F・不二雄大全集)

バケルくん〔F全集〕 (藤子・F・不二雄大全集)

'74年から'76年にかけて、「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」にて連載された「バケルくん」。てんとう虫レーベルで単行本が出たり、コロコロに再録されたりしてそこそこの知名度はあるのだが、TVアニメ化されていないというのが他作品との歴然とした差となり、比較的地味な扱いを受けている。
この作品が他と違うのは・・なによりも設定が複雑なことである。ドラえもんなら「ポケットから便利な道具を沢山出す」、パーマンなら「マスクとマントを付けると強くなる」、エスパー魔美なら「少女が超能力に目覚める」と、藤子マンガはひとことで説明できる設定の作品が多い中、バケルくんの基本設定は「小さな人形がたくさんあり、人形の鼻をつつくとその人形が大きくなって自分の魂が人形のほうに乗り移り、自分は小さな人形に変わる」と、まあ絵で見ればもっと簡単なことなんだけど、やはり他の作品と比べるとややこしい。しかもこの人形を使いこなす応用技やもっと高機能な人形も登場して、一体こんな複雑な設定を使ってどういう話を作るんだろう?と思って読み進めると・・なるほど、この設定をこういうふうに使いたかったのか!と納得してしまうこと請け合い。F氏のストーリー構成力を改めて感じさせる作品である。
他にも、「世の中うまく行かない」と主人公自身も語るややこしい恋模様も注目どころ。特にゴン太からユメ代への片想い。ガキ大将がこれほど全編に渡って恋に溺れる作品もそうそう無い。
何度も何度も読み返したくなる大ボリュームの1冊だ。
じゃ、全話レビュー!(ネタバレ注意)
【小学二年生編】

  1. お化けやしき:2〜3月号にわたる第1話。同時連載開始ではないので、ドラえもんなどと違い第1話もこの1種類だけで、この学年だけが読むことができた。この学年は「ドラとバケルともうひとつ」を含め2年2ヶ月に渡ってバケルを読むことになり、まさにドラバケ世代と呼ぶに相応しい学年。この話ではカワルと宇宙人の出会いと、屋敷&人形ゲットの顛末が。イヌがガラス割って入ってきて抱きついてきたら確かに怖いが、「保健所に電話を」って対処が妙にリアル。
  2. カワルがバケルに:4月号掲載なので、ドラバケ世代の1つ下の学年向けの最初の話だが、もちろん人形を手に入れた後の話。最初は土管から出入りするバケルとカワルを描いて読者に「?」と思わせて、中盤で種明かし。早くもユミちゃんがバケルびいきを始め、カワルは複雑な気持ちに。
  3. 身代わり大いそがし:ユミちゃんと2人でハイキング。カワルがバケルとパパに入れ替わりながら山登りするというドタバタ喜劇。「いないように見えるけど、ちゃんといるんだから」って何だよ。つうかユミちゃんも気付けw
  4. パンダを飼いたい:バケルとカワルで露骨に態度を変えるユミちゃんがひでえ。なぜかこの話ではユミちゃんがのび太、バケルがドラえもんのような立ち位置で問題解決。カワルが3話連続で足蹴にされていじける。
  5. バケル一家大集合:カワルはまだ常識のない小学生で、両親は常識人である。他所の家の人にテレビを買ってもらうという状況の異常さに気付かないカワルと、まっとうな反応を見せる両親。子供向けの漫画なのに子供だましになっていないのはこういう現実的な描写のおかげでしょう。この話でカワルは今後多用するテクニック「同時押し変身」を身につける。
  6. 魔法でチンカラプイ:何と、すべて金で解決する話。バケルくんの父親の財布からは無限に金が出てくるので、結構「金で解決」してしまう話は多かったりする。子供はお金が大好きですからね。
  7. びっくりプール:バケルとカワルの不可解な仲の良さが気に入らない、という気持ちは結構分かる。カワル、完全に自分の家気取りだからな。バケルが「出てこいカワル!ぶんなぐってやる!→バケルもカワルも同じぼくじゃないか」って大ボケにも程があるw
  8. ママがクマになる:タイトルがすでにギャグ。中身は完全にパニック漫画。「カワルくんは勉強しにくるんですよ」ってほんと姑息だなあw カワルに良心のカケラもないあたりが逆に清々しい。そりゃユミちゃんにも好かれないっての。
  9. さらわれたのはだれ?:これは傑作。変身人形をうまく使って誘拐犯をお縄に。どんどん書き換えられていく脅迫状が笑える。憎めない犯罪者たちだ。
  10. バケルくん、サンタになる:ようやく、ようやく、カワルが夜のため人のために変身人形を使った回。これまでは自分が得する、自分が褒められるためだけに使っていたのに、大した成長だ。つうか、サンタがいないことを「小学二年生」でバラしちゃって大丈夫なの?F氏は意外とシビアだ。
  11. 楽しいお正月:「同時押し変身」がさらにパワーアップして、ひとつの心でふたつの体を別に動かす技を身につけたカワル。いったいどういう感覚になるんだ・・。それでもまだこの段階では慣れきってない。アルコールは魂そのものに影響が出るようだ。不思議だ。
  12. 人形もかぜをひく?:本人の体調は変身後の身体には影響が無いらしい。永遠に生き続けられるんちゃうか。カワルの変わり果てた姿に対する3人のバラバラの反応がめちゃくちゃ面白い。
  13. 透明人形:なんと透明人間の人形まで登場。人形のバリエーションでも話をつくれるのか。他人が勝手に変身しちゃってあわてるという展開も多い。よくこんな話思いつくなあ。この世代が次に読んだのは「かけもちでお花見」。

【小学三年生編】

  1. みんなの広場をまもれ!:ドラバケ世代が読んだ第2話。カワルはのび太以上に野球が大好きで(ヘタだけど)、野球話は非常に多い。で、この話は一見みんなのためとはなってるが、結局自分が試合に出たいだけだったと。しかも「金で解決」。うーん、なんて現実的な子供漫画。
  2. 変身人形で大騒動:他人変身系展開。小さな子供がバケルになってしまうややこしい話。まあ実際バケルという人格は存在しないので、誰が中身でもバケルはバケルなんだけど。そして記念すべきゴン太のユメ代への一目惚れの瞬間が描かれ、長い長い恋物語が幕を開ける!
  3. ドロボウも頭にきた:おなじみのユミちゃんの、カワルに冷たくバケルにひいきする場面から開始。お化け屋敷(バケルの家)を舞台にドロボウとの格闘。最後はやっぱりバケルがいいとこもっていく。
  4. ファイターZ:「ライオン仮面」から3年、あのフニャコフニャオが帰ってきた!何故かちょっと若返ったような風貌だが、新作「ファイターZ」でも次号が待ちきれなくなるほどの引きの強さは健在。そして先を考えずに描いちゃうスタイルも健在。イヌの「おあずけ!」にワロタ。どんな漫画だよw
  5. ふろ屋で大さわぎ:いやもうほんと、この漫画の設定を考えた時点で大勝利だな、とつくづく思う。人形がどんどん入れ替わるだけの展開なのに、こんなに面白いんだもん。犬の「オーシャワシャワー♪」とかユメ代の貴重なヌードとかいろいろ。
  6. カワルを名選手に:いよいよ始まったゴン太の恋物語。素直なゴン太に比べ、それをもて遊ぶカワルが外道すぎてどうしようもない。結局実力がないから出してもらえないだけなのに、あの手この手を使って試合に出ようとする。いや、ほんと外道だわこいつ。
  7. バケル一家のよけいなおせわ:カワルは外道かと思いきや今度は突然いいやつになるから困る。でも息子に変身ってのはちょっと後先考えなさすぎだよな。
  8. 止まらない止まらない:外道どころかなんかもう非常識すぎてやばいぜカワル!すべて中身がカワルってのは分かってるんだが、バケ左エ門になってる時はあのアホ面も相まって、バケルのとき以上に馬鹿になってるように見えるのは気のせい?ブレーキ踏めないって馬鹿どころの騒ぎじゃないぞw
  9. ユメ代さんけっこんして:ゴン太の恋物語第2弾!いやーもうゴン太ってほんといい奴ってのがよくわかる話だ!そして主人公のカワルはますます悪党化。ただ困らせたくて一番の宝物をせがむとか・・・。ゴン太が結果的に立派な人物になったので結果オーライ・・・なのか?
  10. かげの通り魔:この漫画には珍しく大人同士のハードな暴力シーンもあり、どちらかというと「エスパー魔美」のような雰囲気。最後の最後はやっぱり金で解決。
  11. 底なしさいふの謎:バケルくんが他作品と比べ異質なのは、ドラえもんで散々描いてきたお金が湧いて出る→しっぺ返し、という原則を丸ごとひっくり返し、ホントに湧いて出ちゃうというところ。その裏付けが描かれる話だが、結局しっぺ返しはなかった。カワルが何の苦労もなく手に入れた金に困らない生活、これも子供の夢のひとつってことですね。
  12. ゴン太、ユメ代に変身:再びゴン太の恋物語、第3弾。ユメ代をダシにしてゴン太に部屋を掃除を押し付け、自分はちゃっかり野球に出て、おまけにエラーに三振。カワル・・・相変わらずの外道っぷりだ。ラストでまたユメ代のサービスシーン。中身はゴン太だが気にするな。
  13. かけもちでお花見:1つ下の世代向けの小三編開始。4月号なので、新規参入者向けの説明も若干あり。前月までは何もなかったのに、小三突入した途端にゴン太のユメ代への恋が描かれるのか。全編に渡って「同時押し変身」技が活躍。アルコール分散も再度。
  14. 五百万円のつぼ:あまり多くない、カワルが人形で人助け(親ですけど)をする話。「お金ならいくらでも」って、そりゃ受け取れんだろ。融通が効かないとかいう問題じゃない。ユメ代考案の人形を使った脱出アイデアが頭良すぎる。
  15. 子どもはいやだ!!:またしても父親助け。かなり強引だが、巧妙な変身を繰り返す頭脳戦ともいえる話。機嫌が悪くなると課長昇進再考を持ち出す部長はどうかと思う・・・。
  16. バケタ屋開店:人形を利用して洋服屋を開店する。カワルの人形の使いこなしっぷりが凄すぎる。人形に装着されたものはいっしょに拡大縮小できるという性質を上手に使っている。「ややこしいなあ」と言いつつも、カワルこんなに頭良かったのか。
  17. 宇宙旅行:円盤に乗っていきなり宇宙へでかける話。ホントいきなりだ。まあ宇宙人なんかよりも、カワルの変幻自在っぷりだけで十分驚きだと思うのだが。木島くんは宇宙で「ムギー」と発狂して死の一歩手前までいく。かわいそう。
  18. ゆうれいくんがんばって:いつの間にかお化けやしきがただの遊び場と化していた、ということでゆうれいを利用して人を追い出す。無関係な人までおどしまくって迷惑な奴だ・・・。
  19. おたがいに大変だ:人形変身の新たな応用技「魂入れ替え」。人形を使えば誰か2人の魂を入れ替えることだってできるのだ。しかしされた側はたまったもんじゃないな。記憶喪失症ってそんな感じだろうし。会社で泣きわめくママが可哀想・・・。
  20. ゴキブリラーメン:F氏はうまそうな食べ物を描くのが得意だが、まずそうな食べ物も一級品だなあw あの「ベチャ」って音がするそばが最悪にまずそう。あのクズ店長をこらしめる展開かと思いきや、普通に金で円満解決。賢明ですね。
  21. 怪人五十面相:いやあカワルやっぱり悪党だなあ・・。しかし今回は悪知恵をなかなか巧妙に使っており、読んでる方も壮大なイタズラを見ている気分。やってみたいなこういうの。パーマンの千面相がさりげなく登場!
  22. こまったニャア:なんと入れ替わり専用の人形「入れ替わり人形」が登場。ネコと魂を入れ替えたはいいが戻れなくなったという話。
  23. はつゆめに白雪姫を:親切というか単に王子役がやりたいだけのカワル。駄目だこいつ。気絶させられて、プレハブに連れ込まれ、掃除させられ、おまけに大して好きでもないカワルにキスされそうになるというユミちゃんの災難話。
  24. カワルついに正選手に:カワルはもっと怠け者の卑怯者でいてほしかったのだが・・・真面目に練習していたのか。まあ、試合への出方は相変わらず人形を使ってるのでアンフェアだが、結果が出たのが今までと違うところ。めでたく4番に昇格したところで、これがこの世代向けの最終回。

【小学四年生】

  1. 二人で散歩を:ドラバケ第1回での話。冒頭はカワルとユミちゃんの絡みだが、メインは前号に引き続きまたしてもゴン太の恋物語。カワルはユミちゃんが好きで、ユミちゃんはバケルが好きで、ゴン太はユメ代が・・と。ユメ代が気まぐれにゴン太を振り回すのがヒドイ。まさに外道カワル。
  2. パパとママが離婚する!:カワルがに人形を使ってやることってのは大抵自分勝手なろくでもないことなんだが、何かいいことをするのは、決まって両親のためである。親孝行だなあ。
  3. ゴン太のガールフレンド:ゴン太がユメ代にストーカーレベルの付きまといを始める。これだけ弱みのハッキリしたガキ大将も珍しい。しかしこの話からするとただ単に惚れっぽいだけという疑惑も・・。まあストレートに気持ちが行動にでるタイプなんですな。
  4. 大まんが家カワル先生:金にものをいわせて、雑誌に自分の漫画を強引に載せちゃうというやりたい放題の外道カワル。ヘタクソなくせに漫画を描くのが好きってのはのび太もそうだったな。オチも「週刊のび太」を思わせる。
  5. 一日ゴン太:全話通して屈指の外道カワルが見られる話。ゴン太は監督としてきちんと仕事をしてるんであって、ヘタなカワルが試合に出られないのは当然のこと。それなのに強引にゴン太と入れ替わり、カワルを試合に出してしまう。何つう野郎だ。そこまでしなけりゃ「試合に出たければ実力つけなきゃ」ってことが分からんのかい!
  6. カワルが二人に・・!?:ついにコピー人形登場。ひとりの意思で2人の自分を動かすことができる。冒頭の左右で違う絵を描くというシーンによって、相当訓練がいることが分かるようになっている。せっかく練習したのに、試合ではまた・・・。
  7. この問題とける?:ユメ代は自分だから自分で宿題やってるのと同じとほざくカワル。結局やってもらってるのと同じだろ!と言いたくなるが、自力で勉強することは微塵も考えず、さらにインチキしようとする。さすがカワルさん外道すぎるぜ。最後は天罰ですかね・・・。
  8. サンタのおくりもの:間が悪い電話に始まり、また外道カワル登場かと思いきや、前回までの汚名返上を果たすべく(?)、人助けに勤しむカワル。例のUFOで北極まで出かける大冒険。小四向けだけあって、小二のときの子供だましクリスマスとはひと味違う良い話。
  9. なぐり屋がきた:新年早々、重苦しいシビアな話。確かにこんなヤツが現れたら人間不信になりそうだ。でも最初になぐり屋に頼んだ奴って実はいないんじゃないか?それを皮切りに儲けようという、彼の作戦勝ちですな。後半はゴン太の男気が見所。そこを評価して彼に花を持たせるカワルも偉いな。
  10. お医者人形:いきなり4Pの短編、そして外道カワルが帰ってきた!それに引き換えゴン太は親切じゃないか・・・。
  11. コピー人形:ドラバケ世代向け最終回だというのに、ユミちゃんのカワルへの冷たい態度は相変わらず。そして一人芝居三昧のあまりにもむなしい話。F氏も特に最終回を描く気はなかったのか、ちょっと寂しさの残る話。

【別冊コロコロコミック編】

  1. ゴン太のライバル:8年の時を経て、別コロに復活。絵柄も8年でだいぶ変わり、カワルは別人のよう。しかしカワルとユミちゃんの冷めた関係、ゴン太のユメ代への恋心は相変わらずで、8年ぶりというのを感じさせないほど、前回と自然に繋がっているかのような話。ライバル登場はおまけみたいなもんで、まあ連載再開記念回!ってとこですね。
  2. タレントは大いそがし:冒頭のカワルがあまりにも哀れ・・ていうか8年経ってユミちゃんさらに性格悪くなってないか!?気軽に芸能界に飛び込んだカワル(中身だけ)だが・・結局、気軽に入れるような世界じゃないってことで。
  3. ユミちゃんとデート:さらにユミちゃんへの思いは強く。そして思いついたのはユミちゃんのコピーとのデート・・・それでいいのかカワル!?ユミちゃん初のヌードも公開。「世の中って思い通りにいかないものだねえ・・・」いやお前は結構思い通りにいってるほうだろと。ただ道具じゃ人の心までは動かせないんだなあ。なんかシビアだ。
  4. 二人が同時に生きられたら:ホントの最終回。ここでついにカワルとバケルが分裂を果たす。自分の感じられる意識はどちらか一方なのか?じゃあもう一方の自分の意識はどこから来たのか?と謎はつきない。だがやはりそれもいまいちな結果。最後もあのシーンで終わるのはちょっと寂しさが残る。別コロ編の4回分は、なぜか現実の厳しさを突きつけるような話が続いたという印象。